調査・モニタリング

生命科学技術を利用し、木材、石材、金属などの文化財の生物学的被害を予防し、紙類、繊維類のような有機質文化財の生物・科学的影響力に関する科学的研究を行っている。屋外にある石造文化財の損傷環境に関する合理的なコントロール方法を導き出すため、保存環境モニタリングも行っている。



文化財の生物被害防除の研究

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木材に被害を与えるシロアリ-兵隊アリ(中央右側、大きくて赤色の頭部を持つ個体)と働アリ

紙、木材、繊維など有機質の文化財を昆虫・微生物の被害から守るため、文化財の被害状態・損傷原因を研究している。天然薬剤から防虫・防菌剤の開発(特許登録:第0421539号)など、伝統技術と現代科学技術を利用し、生物被害を最小限に抑えるための総合的な防除研究を進めている。また伝統韓紙と繊維の物理的・化学的変化を調べ、材質の損傷原因や永久保存のための科学的研究も行っている。

木造文化財の生物被害現地調査

木造文化財の保存状態、虫菌害など、加害原因別の被害状態調査・木造文化財の生物被害防止のための保存案を講じるため、生物被害の現地調査を行った。調査の結果、木造文化財の部材を害する昆虫としては、タバコシバンムシ、ヒラタキクイムシ、シロアリ、蜂類(クマバチ、アナバチなど)などがおり、そのほかにも木材腐朽菌や湿気による腐朽、亀裂・破損による損傷が発生した。


蜂による木部材の損傷

image シロアリによって表面が損傷した敷居
image シロアリによって損傷した床束の状態
image 蜂による穿孔被害を受けた柱
image 蜂による穿孔被害を受けた龍頭

タバコシバンムシによる木部材の損傷

image タバコシバンムシによって損傷した壁線
image タバコシバンムシによって損傷した柱

ヒラタキクイムシによる木部材の損傷

image ヒラタキクイムシによって損傷した柱Ⅰ
image ヒラタキクイムシによって損傷した柱Ⅱ

腐朽による木部材の損傷

image 腐朽菌によって損傷した木部材
image 腐朽菌によって損傷した柱

木造文化財のシロアリ防除対策

モニタリング調査

木造建造物のシロアリ被害予防のため、モニタリング用木材試片を設置し、周期的なモニタリングを実施する。これにより、周辺地域のシロアリ分布状態を確認する。シロアリの侵入が確認された場合は、周辺の木造建造物を対象に、被害を抑える防除処理を行う。


モニタリング調査
- 場所:五大宮(2000年~2003年)

image モニタリング用木材試片の設置状態(2002年7月)
image シロアリによる被害が進行中であるモニタリング用木材試片(2002年7月)
image シロアリによって損傷したモニタリング用木材試片(2003年6月)

薫蒸処理

薫蒸処理とは、木造物を被覆し、殺虫・殺菌処理すること。文化財への薬害が少なく、殺虫殺菌効果に優れているため、文化財防除方法として多用される。しかし残留性が少なく、生物被害の再発防止のための後続処理が必要となる。韓国ではメチルブロマイド(Methyl bromide)とエチレンオキサイド(Ethylene oxide)を86:14の割合で混合したガスを使用している。


燻蒸処理の例(長水郷校・大成殿)

image 長水郷校・大成殿
image 足場および瓦保護台の設置
image 被覆燻蒸完了
image ガス濃度を測定するためのホースを設置
image 効果を判定するための供試虫・供試菌の設置
image 気化器を利用した燻蒸薬剤の投薬

土壌処理

土壌処理とは、木造物の基壇部や周辺に殺虫剤を投薬し、シロアリの侵入を防止する方法。だが周辺水質の汚染、居住者・動植物の安全性などの事前調査・検討が必要である。
BifenthrinやKilbespecial-60などの薬品が用いられる。


土壌処理の例

国宝宗廟・正殿> - 2001年8〜9月に実施

image 建物床面の穿孔
image 孔へ殺虫剤を圧力注入
image 正殿の裏面(柱と壁の間)へ殺虫剤を注入
image 正殿の前面の殺虫剤注入後の状態

群体除去システム

群体除去システムとは、シロアリの行動特性を利用し、シロアリの群体全体を除去する方法。他の化学的方法に比べ、環境への影響がほとんどない。また周期的なモニタリングにより、周辺に分布するシロアリの建造物への侵入を未然に防ぐことができる。シロアリの誘引剤にシロアリが入るまでに3~6か月という長い期間を要するのが短所。


群体除去システムに関する実験研究
- 場所:宗廟(2000年7月~2001年12月)

image グローバルステーション
image シングルステーション

シロアリ群体除去システム

image 群体除去システム設置の様子
image 定期的にモニタリングを実施
image 木材試片を攻撃しているシロアリ
image 群体除去用エサ(bait)の投入
image 群体除去用エサ(bait)を攻撃しているシロアリ
image bait成分によるシロアリ除去の効果

石造文化財の保存環境調査研究

屋外にある石造文化財は、その地域の空気、地形、植生、水分環境など、周辺環境から複合的な影響を受けている。とくに、石造文化財は頑丈な材質の特性を持っているが、ほとんどが屋外に露出している状態なので、自然の風化と人為的損傷が進んでいるため、その保存対策は急を要する。現在、石窟庵、瑞山磨崖三尊仏像、泰安磨崖三尊仏像など、国家重要文化財の損傷と保存環境に対する中長期モニタリング分析に基づき、両者間の相関関係を科学的に究明し、環境制御方案を導出するため、保存環境調査を実施している。

image 瑞山磨崖三尊仏像
image 泰安磨崖三尊仏像
image 雲住寺石仏群
image 雲住寺における微気象測定

石窟庵(国宝)保存環境調査研究

石窟庵

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石窟庵は、新羅景徳(キョンドク)王10年(751年)に金大城(キム・デソン)が国王の意味を敬って創建した寺。恵恭(ヒェゴン)王10年(774)に完成し、石仏寺(後に石窟庵に改称)と呼ばれていた。吐含山の中腹に、白色の花こう岩を使って人口の石窟を造り、内部に本尊仏である釈迦如来仏像を中心に、周囲の壁面に菩薩・弟子の像、天王像など全部で40体の仏像が彫刻されたが、現存するのは38体のみである。石窟庵は新羅仏教芸術の全盛期に造られた最高傑作であり、建築、数理、幾何学、宗教、芸術などが有機的に結合している。石窟庵は現在、国宝に指定・管理されており、1995年12月、仏国寺と共にユネスコ世界文化遺産に登録された。


石窟庵保存のための管理・補修現況

石窟庵の損傷は、日韓併合(1910)を前後して日本の侵略が始まり、義兵の蜂起とそれを追う日本軍の作戦と遺物の略奪の過程で、石窟の前堂が崩壊し、石窟の天井部が壊れた。日本が石窟庵を最初に見つけたのはこの時で、当時の修理も、石窟の危機を取り除くための試みであった。数度にわたる補修が行われたが、結果的に石窟を本来の姿に戻せなくなり、日本はその原因を調査不足だとした。


1.植民地期の補修・管理状態

この時期の補修は、日本人により3度にわたって行われた。1933年、1945年には、蒸気を利用して青苔の除去を行った。

  • 第1次工事(1913~1915)
    • 補修前の石窟庵は、天井の石材が1/3ほど離れた状態で、残りの天井も崩落し、中 央の仏像を破損する恐れがあった。また内部に流れこんだ土砂は、石窟庵に悪影 響を及ぼしていた。この工事は、壊れた石材は新材に彫刻を施して入れ替え、石 窟庵を再度組み立てて崩壊しないよう頑丈に補修することを目的とした。そのた めコンクリートによって石窟庵の全体を固めてしまった。
  • 第2次工事(1917)
    • 第1次工事の後、石窟内部の漏水現象が発生し、石窟外部の土を取り除いてモルタルと粘土を使って防水処理を施した。
  • 第3次工事(1920~1923)
    • 第2次工事の後も漏水現象はやまず、防水層を新設して排水施設を改善するなど、 大々的な漏水防止工事が行われた。
  • 植民地期の管理状況
    • 第3次工事の後も結露と漏水が続き、石窟内に青苔が発生した。これを1933年と 1945年、蒸気によって除去した記録が残されている。

2. 解放以降の管理状況

解放以降、社会的混乱と戦乱が続き、石窟庵への保存対策はほとんど行われず、放置されていた。石窟内の汚染がひどくなったため、1957年には洗浄作業が行われた。石窟庵の保存に対する関心と懸念が高まり、1958年から1961年にかけて補修工事調査審議会による補修のための調査が行われた。1961年から1964年まで前室を拡張して木造建物を設置し、石窟の壁を二重のドームに作り替えて防水処理する第4次工事が大々的に行われた。だがその後も結露現象はとまらず、前室に入口を設置して空調機器を設置し、1976年~1977年にはガラスの壁を設置して内部照明を改善した。また前面の基壇を拡張して観覧客の出入に制限をかけるなど、補修が一部行われた。


3. 石窟庵石窟の保存環境

石造物表面の結露現象など、石窟内部の湿気のために問題が生じたので、1966年から空気調和設備を設け、石窟内の温度と湿度を一定に保った環境を整えている。今まで、10年に一度設備を交換しており、2005年に交換した現在稼働中の空調機器は石窟内部の環境を制御している。

  • 保存環境調査
    • 石窟庵の石窟には2007年から温湿度センサー(石窟内部3つ、二重ドーム2つ)お よび二酸化炭素センサー(石窟内部1つ)を設置し、リアルタイムで保存環境をモ ニタリングするため、遠隔モニタリングシステムを運営している。
image 石窟庵の保存環境モニタリングの現状
image 遠隔モニタリングシステム

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