文化財の科学的分析

金属、硝子、陶器・土器、顔料など様々な材質の文化遺産の成分および微細組織の分析により、製作当時の原料の成分、製作技法、産地などの推定に活用している。また最近、BT(Bio Technology)分野における分子生物学的技術を応用し、出土した人骨や動物骨のDNA分析、古生物遺体の安定同位体分析および出土有機試料の科学的分析研究を行っている。



古代金属遺物の材質分析および製作技術の究明

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米粒大の風鈴を収拾した状態

金属遺物の科学的分析により、微細組織および硬度などを調査し、製作技法および産地を推定する。

分析過程

金属遺物の分析過程

image 1. エポキシ樹脂を利用し、組織観察用試片をつくる。
image 2. 顕微鏡で観察する表面を鏡面で練磨する。
image 3. 分析顕微鏡により微細組織を観察する。
image 4. 蛍光X線分析装置で成分を分析する。
image 5. 微小硬度計を用いて各部の硬度を測定する。
image 6. X線回折分析装置を利用し、結晶構造を分析する。

金銅遺物:青銅に金鍍金した遺物

金銅遺物の材質分析は画像分析装置を利用し、鍍金層や内部組織を観察し、蛍光X線分析装置を用いて各部の成分を分析する。以下は感恩寺址・東三重石塔(国宝)から出土した舎利箱遺物を細部撮影と成分分析を行った結果である。


舎利瓶の蓋の細部を撮影

image 幅約0.25mmの金線と0.3~0.5mmの金の粒によって装飾が施されている。(全長1.3cm)

舎利瓶の蓋に付いているつまみ部分を拡大撮影したもの

image 中央の7つの金の粒を中心に、七ヶ所に3つずつ金の粒で装飾が施されている。(全長0.4cm)

金の粒の使用技術の日常化

image 0.3mmの金の粒を内側の接合基準点とする。

風鈴を収拾した状態

image 米粒大の風鈴を収拾した状態約5mmの鐘身の0.3mmの金の粒の装飾が施されている。

金の粒の内部組織の状態

image 純度98%の純金を使用している。

金の粒の内部組織の状態

0.3mmの金の粒を金鍍金(銀10%を加えた合金)を利用して強く固着させている。溶融温度は、純金は1,063℃、風鈴の素地(金94%)は1,055℃、10%の銀が含まれた金鍍金は1,046℃である。つまり、各部の銀の顔料により溶融温度を別にして金鍍金している。これにより、新羅の職人が優れた冶金術を持っていたことが分かる。

image 溶接部分の面積を最小限に抑えた素晴らしい固着技術を示している。→接合面の長さ0.18mm

青銅遺物:銅に錫が含まれた遺物

青銅器の種類による組成の分布

以下の図は三種類の青銅器における代表的な主成分の分布を示している。青銅の匙と箸および青銅容器類1は鉛が含まれておらず、約550℃で鍛造し水で冷ましたパンチャ(朱錫と合金した鍮銅の固まりを鍛錬して作り上げた器をさす)であることが確認できた。生活用品の中でも主に食器として使用された。青銅容器類2と青銅剣には適量の鉛を含め鋳造性を高めることによって製作しやすくした。このグループの青銅容器類は食器を除いた祭器類などに使われ、青銅剣は錫と鉛を少量ずつ加え、適度の硬度と靭性を持たせた。

image 青銅遺物の平均組成グラフ

青銅遺物の微細組織

青銅遺物の成分および微細組織を分析すると、鋳造品なのか、鍛造品なのか、その製作法を知ることができる。鋳造品の場合、樹状構造(dendrite)を持ち、鍛造品の場合は熱処理されるので端正な結晶粒を示す。鋳造品でも長時間加熱すると樹状構造は消え、結晶粒に変わる。また、鉛は銅や錫に溶け込まず、ほとんど丸い粒子で凝固状態で枝の間に散在しており(片石)、含量が10%以上の場合は共析組織(α+δ)が現れるのが確認できた。


青銅の匙

image 青銅の匙
image 青銅の匙の微細組織(鍛造品、200×)

青銅の盒

image 青銅の盒
image 微細組織(鍛造品、200×)

武具類

image 青銅剣
image 青銅剣の微細組織(鋳造品、200×)

高麗梵鐘

1999年11月、日本人の高原日米子氏が韓国に寄贈したもので、高さ71センチ、下部径50センチの中型梵鐘である。

image 高麗梵鐘

鉄器遺物:鉄を利用して製作された遺物

鉄の性質は、鉄に含まれている炭素(C)の量によって決められる。Cの全く入っていない純鉄の融点は1,538℃である。Fe-Fe3C状態図に表われる固相には4つの種類がある。つまり、αフェライト(ferrite)、オーステナイト(austenite)、セメンタイト(cementite)、δフェライトである。Cが1%の鉄の場合、鉄の液状であるLの状態で冷めると、1,430℃でオーステナイトであるγの結晶粒が生じ始め、1,360℃でγとなる。さらに温度が下がり810℃となると、セメンタイト(Fe3C)という析出相が生じ、次第に増える。さらに冷めて727℃になるとγは消え、フェライトのαとセメンタイトになる。しかし、実はCが0.8%の場合、パーライトが生じ、パーライトの上からセメンタイトが析出される。パーライトはフェライト(α)とセメンタイト(Fe3C)が交互で層状をつくる析出物である。とくにCが4.3%の場合、結晶粒が増えず、1,130℃で瞬時に凝固する。したがって、鋳物用としてはこの組成の鉄を利用する。

image Fe-C状態図実線:Fe-Fe3C状態図、点線:FeㆍㆍㆍC状態図

鉄の種類

鉄はCの量が多いほど硬くなるので鍛造が難しくなる。したがって、鉄を区分するときは、Cの含有量をもって種類を分ける。
1.錬鉄(wrought iron):純鉄とも呼び、炭素の含有量が0.1%以下のものを指す。 非常に柔らかく、手で曲げることができる。鍛造して器などをつくることはでき るが、硬度が低いため、刀、斧などの利器には適しない。
2.鋼鉄(steel):炭素量が0.1∼1.7%の鉄を指す。硬いが、延性があるため、鍛造 によって様々な物に製作することができるので、鉄の中で最も幅広く使われる。韓国でも鉄器時代の初期から多く使用されてきた。
3.鋳鉄(cast iron):銑鉄とも呼ぶ。炭素の含量は1.7∼4.5%以上である。非常に硬いので鍛造はできず、鋳造用でのみ使われる。この国では鉄器時代に斧などをつくる際に使用した。


鉄製遺物の微細組織

鋳造品

image 鉄斧
image 鉄斧の微細組織(200x)

鍛造品

image 鉄製鑿
image 鉄製鑿の微細組織(200x)

陶器・土器の製作技術の究明・産地推定

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土器の偏光顕微鏡写真

陶器・土器の科学的分析とは、鉱物の組成、化学成分、焼成温度・微細構造の観察、製作技法の研究、採取地域の地質学的特性をもとにした微量元素分析による産地の推定などの作業を指す。

分析過程

陶器・土器の分析過程

image 1. 陶窯址別に土器を収集し、分類する。
image 2. 分類した土器は表面の異質物を除去するため、蒸溜水で洗浄する。
image 3. 各土器を粉末化する。
image 4. 土器の主成分は、誘導結合プラズマ発光分析機によって分析する。
image 5. 土器の微量成分は、中性子放射化分析機によって分析する。
image 6. 土器内に含まれる鉱物は、偏光顕微鏡を使用して調べる。

土器の科学的分析

土器分析の目的

土器とは粘土を焼いた容器を指す。土器は粘土の質、製作方法、装飾により質感と形が大きく変わる。また、土器は生活文化を反映し、どのような堆積環境でも腐食せず、もっとも保存状態の良好な考古遺物であるため、考古学研究の基本資料となる。しかし、従来の土器に関する研究は器形、文様のような外形の要素を中心とした形式分類と編年がメインであった。しかし、最近では自然科学的方法を用いて土器から多くの情報を得ている。土器を科学的に分析する目的は大きく二つに分けられるが、一つは製作方法および製作技術の把握であり、もう一つは原産地の推定である。土器の製作技術は鉱物の組成、化学的組成、焼成温度などの分析と構造的な側面の組織分析により把握することができ、産地の推定は土器や陶磁器の原料を微量元素の分析により採集した地質学的特性を調べることによって行われる。このような産地の推定により古代の交易および交流関係について解明すると同時に、生産地と消費地との政治・経済・文化関係を明らかにし、それを可能にした当時の社会の生産様式、階層化の問題などにもアプローチできる。


土器の分析方法

土器の原料となる粘土にはSi、Fe、Al、Mg、Ca、Naなどのような元素が含まれているが、これらを含む鉱物の種類と構成比率は粘土の性質を決定するのに影響を及ぼす。粘土鉱物やそれらの副成分鉱物の種類と構造、そしてその相互関係を把握するには様々な自然科学的方法を利用して分析する。土器を科学的に分析する方法としては、鉱物学的分析、化学的分析、熱分析などに分けられる。鉱物学的分析方法としては偏光顕微鏡、走査電子顕微鏡などがもっとも一般的であり、化学的分析方法としてはX線回折分析、原子吸光分析、蛍光X線分析、中性子放射化分析、ICP(誘導結合プラズマ)発光分析などが利用される。また、熱分析方法としては、示差熱分析、熱重量分析、熱膨張分析などを利用して土器の焼成温度を推定する。


土器の産地の分類

土器は粘土により製作され、粘土は地質学的空間のある場所、つまり粘土層から採集される。また、粘土は地質学的または地球化学的過程の産物であり、岩石が風化する過程でつくられる。岩石が風化し、粘土になっても粘土には岩石の化学的特性が残っているので、粘土にはそれが採集された地域の地盤を構成する岩石の化学的特性を反映する。したがって、土器の胎土の化学的特性は、それが採れた地域を示すといえる。ところが、粘土を構成する主成分はSi、Al、Fe、Ca、K、Na、Mgのようなものである。それぞれの粘土の産地からこのような主成分を分析・比較すると、含量の分布の範囲が重なる場合が多く、粘土を産地別に分類するには適していない。したがって、土器の産地推定には、主成分より微量成分の分析がより効果的である。しかし、微量成分の含量をもって産地を分類するのにどのような元素が有効なのか判断するための先験的な基準はない。したがって、多数の微量成分を定量分析し、産地別に分類しなければならない。とくに、土器のような遺物は非常に不均質な物質であり、添加剤などの影響により微量成分の濃度は変化することがあるので、このような資料の偏向性を克服するためには、多数の元素を分析することである。このような多数の元素の中で産地の判別の中心となる元素は平均、標準偏差、変動係数(標準偏差/平均×100)を求めた時、各試料の平均の差が大きく、変動係数は小さい元素である。


南道土器窯跡の産地分類

統計分析を利用した慶尚南道の5つの土器窯跡の産地を分類した結果、4つのグループに大別できた。これらそれぞれのグループに分類された窯跡は地質学的に相関性がないことを意味する。

image 慶尚南道土器窯跡の統計分析結果

古代顔料の材料分析

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西三陵英祖公主の胎土の赤色顔料

古代顔料の成分を調査し、各時代の顔料成分を比較研究する。また断面組織を観察し、古代壁画の製作方法を解明する。

古代・現代顔料の比較

韓国における古代顔料の使用は、高句麗古墳壁画の彩色に由来する。これら古代顔料は、自然から採取される鉱物性の無機顔料が主である。だが現在は天然無機顔料の入手が高価であり困難な場合も多く、その使用が大きく制限される。そのため定価で入手しやすい人工合成顔料を代替顔料として多用している。


西三陵英祖公主の胎土顔料の分析

古代顔料の材質分析は、蛍光X線分析機を使って個別に色を定性分析し、微少部X線回折分析機によって色の鉱物を分析する。西三陵英祖公主の赤色胎土の顔料分析結果は、次の通り。

image 西三陵英祖公主の胎土
image 微少部蛍光X線分析機による胎土の赤色顔料定性分析の結果→主成分:Ca、Pb、Hg
image 微少部X線回折分析機による胎土の赤色顔料鉱物の分析結果→HgS(Cinnabar)、CaCO₃(Calcite)、PbO(Leadmonoxide)

鳳停寺極楽殿壁画の断面撮影

映像分析機を使い、壁画の断面組織を観察することにより、壁画製作方法の研究が可能となる。

image 鳳停寺極楽殿の壁画内壁断面写真(対物レンズ倍率5×)→染料層(Paintlayer)、下地層(Ground、黄土+白土層)、壁(Supporhsh)
image 鳳停寺極楽殿の壁画内壁断面拡大写真(対物レンズ倍率10×)→染料層(94~150㎛)、下地層(黄土層:32~77㎛、白土層:160~211㎛)

出土した有機試料の科学的分析

Research and Scientific Analysis of Excavated Organic Samples image
Stable Isotope Analysis of Fossil Material image

出土有机样本的科学分析研究

考古遺跡から出土した有機物試料に残っている微生物や花粉などの古生物と有機成分の科学的分析により、古代の人々の食生活と疾病の関係など、当時の生活文化を科学的に再解釈することを目標とししている。とくに、過去の生命体の新陳代謝と関連した生活環境を間接的に確認できる重要な遺跡という評価を得ているトイレ遺跡からは生物種と有機成分が採集できるので、人類の生活史を類推する上で貴重な資料を提供する。このように、歴史の情報を豊富に含んでいる「土壌中の有機物の分析」により、韓半島を含む北東アジア全般にわたる古代史について、また別な解釈が得られると期待されている。

土壌の意味と関連研究の事例

1. 土壌学における「土壌」とは

現地の気候、動植物、母岩の組成と組織、地形、年齢(時間)という土壌の生成因子の総合作用の結果として地表に生じた独立的・歴史的自然体を指す。


2. 遺跡で発見される堆積層とは

遺物や遺跡を含む空間という意味はもとより、遺跡が形成された過程と、当時の環境を示す。したがって、遺跡の解析のために必ず観察すべき考古学的資料を含めているため、当時の環境に関する資料を多様な分析方法(粘土鉱物の分析、粒度分析、水素イオン指数分析、有機質分析など)を利用して最大限抽出しなければならない。

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堆積層の有機無機物が提供する資料は

1.当時の環境を復元するための資料
2.人間の生活経済と関連した資料
3.相対年代の編年資料
4.人類の行動様式および技術レベル(食料の獲得、加工、利用)、栄養状態に関す る資料


韓国の場合

新昌洞低湿遺跡の花粉分析および寄生虫卵の分析
金原正子・金原正明(1997)、国立光州博物館、光州新昌洞低湿地遺跡Ⅰ


日本の場合

  • 土壌の脂肪酸分析により遺構の性格を解明
    • 中野益男(1984)、[残存脂肪分析の現状]、[歴史公論]第10巻第6号
  • 黒曜石と土器の胎土の中に微量元素の構成比をもって原産地または生産地と消費地との関係、つまり交易・流通の問題を解決
    • 中野益男. 1985. [特集. 黑曜石硏究の現狀].
      [考古學ジヤ-ナル] No. 244.
  • 8世紀頃の土鉱内に堆積された土壌から回虫などの寄生虫卵が検出
    • トイレ遺構から籌木という木片(当時のトイレットペーパー)も多数出土トイレ考古学のきっかけをつくる
  • 金原正子・金原正明(1995)、日本文化財科学会、第12回大会研究発表要旨集
image 資料類型
image 資料類型
image 資料類型

西洋の場合

  • 5β-stanols分析によるトイレ遺跡の究明および食生活の研究
  • 炭素安定同位体の分析による古代の食生活パターンを究明
  • 窒素安定同位体の分析による遺跡の用途の究明および古代の農耕史を研究
  • Bile acids分析による糞便性汚染源の種の究明による生活史の研究
  • 生物分子(蛋白質、脂質、食べ物の残留物質)による古代生活活動の傾向に関する 研究

土壌試料採取の留意点

試料採取

image 試料採取

試料採取の留意点

1.周辺遺物に損傷を与えずに土壌試料を採取(遺物の発掘専門家と行うのが望ましい)
2.土壌試料の採取は手袋(ラテックス類)着用(有機土壌分析時の汚染範囲を最小化)
3.土壌はスコップ、鑿などを使って採取(使用した道具は、洗浄して再度使用)
4.最小5か所から試料採取(深さ、広さ、色など遺物表面を考慮)
5.表面土を5センチほど除去してから採取(汚染土壌の除去により誤差範囲を最小化)
6.周辺の対照土壌(controlsoil)も採取(対照土壌も最大5か所で採取)
7.容器はアルミホイル、ガラス瓶を推奨(現場ではビニールパック使用可)
8.土壌試料の採取記録紙に付着(発掘地、位置、日時、採取地名など記録)
9.試料は低温、日陰で保管(日陰の貯蔵庫、もしくは4℃にて冷蔵保管)

image 試料採取の留意点

遺跡発掘における土壌の模式図

image 周辺の対照土壌からは5ヶ所以上を採集し、それを必ず明示すること。

※ 遺跡発掘の土壌調査観察の際の記載事項

発掘地、発掘日付、担当者、海抜高度(海水との距離)、土地の用途(現在の状態の農地、田畑など)、気候、土性と土層の区分(粘性、色、粒子の大きさなど)、土層の厚さ(発掘地の土層の基礎資料)、乾燥状態(乾燥、多湿)、岩石の有無および種類(花崗岩、砂岩、大理石など岩石のおおよその種類)、穀物の有無および種類、骨片の有無および種類(魚骨、人骨など可能な範囲で表現)、植物体の有無および種類(藁など可能な範囲で表現)

土壌の分析研究および期待効果

古代土壌の基礎特性研究

- 無機物、有機物の含量など土性の研究
- 古代遺跡に居住していた人類の食生活および住居文化を究明


遺跡、遺構の特性研究

- 脂肪酸分析(TLC、GC/MSなど)による土壌成分の定量および定性
- 古代トイレ遺跡、家畜飼育などの遺構の多様な用途を究明


古代人類の疾病研究

- 微生物、寄生虫などの形態学的、分子生物学的研究
- 土壌汚染の状態から古代遺跡に居住していた人類の疾病関連の生活史を究明


遺跡周辺の古環境の研究

- 植物の花粉、葉、根などの形態学的研究
- 遺跡周辺の古環境および古植生の特性を究明


古生物の特性研究

- 土壌内に残存する古生物の遺伝学、分子生物学の研究
- 古生物の形態的分類と遺伝学的分析による種の同定
- 現存する生物との遺伝子を比較することにより、韓半島の古生物のデータベースを構築

王宮里遺跡の土壌分析結果報告書

1. 分析の目的

遺跡の土壌から古生物および有機成分の分析による古代人類の食生活史、古環境、疾病の有無および古生物種の同定、遺伝子研究など古代土壌の科学的解析


2. 分析の対象

全羅北道・益山市・王宮里遺跡(史跡)西北地域の大型竪穴遺構内部の土壌5ヶ所(発掘機関:扶余文化財研究所)


3. 分析期間

2004年6月~2004年11月(6ヶ月)


4. 分析担当

国立文化財研究所・保存科学研究室


5. 分析過程

2003年11月、扶余文化財研究所が益山王宮里において有機土壌を発掘(Fig.1)
-長さ10.5m、幅1.7m、深さ3.6mの大型竪穴遺構

2004年3月、扶余文化財研究所が出土し、土壌試料を確保(Fig.2)
-深さと色によって計5ヶ所(A、B、C、D、E)の土壌試料を確保(Table 1) :A(240~250cm)、B(280cm)、C(326cm)、D(350cm)、E(360cm)
-土壌試料は実験室において4℃以下の冷蔵庫に保管

粒状の特性(Texture、Soil Class)および土色(Soil Color)の分析
-粒状特性土壌判定区分法(クァク・ジョンギル、1995)と比較し、土性を判定
-土色表示法(Munsell Color Chart)をもって土壌の色を区分

有機物の総含量分析(Total Organic Compound Content)
-強熱減量法(Loss On Ignition、LOI;Carter、1993)を利用し、有機物の含量を分析
-高熱乾燥機(Furnace Type 47900、USA)を利用し、強熱温度550℃で1時間30分間 減量する。

pH測定
-土壌pH測定法(チョ・ソンジンなど、2002)を利用し、土壌試料対蒸留水を1:5の 比率で混合し、測定
-pH Meter(Hanna Madel Hi9024C、USA)をpH4.01と7.01に補正し、使用

寄生虫卵の観察
-0.5% Sodium Phosphate Tribasic 40mlを利用して寄生虫卵を浮遊させる。
-偏光顕微鏡(Zeiss Axioplan2 Polarize Microscope、Germany)を利用して寄生虫卵を観察

image Fig.1. 益山・王宮里遺跡の全景。矢印は有機質土壌を採取した竪穴遺構
image Fig.2. 竪穴遺構の土層断面および資料採取位置
image Table1. 各層別土壌資料の現況

6. 分析の結果

粒状の特性および土色の分析
-土層の境界は色で区分できる。(Fig.2)
:不規則な水平構造という特性を持つ。
-全般的に各層の土壌は濃い黒の腐食粘土であることが確認された。
:A試料は暗黒褐色の腐食粘土、B試料は暗灰色の腐食粘土、C試料は黒の腐食粘土 D試料は黒灰色の腐食粘土、E試料は暗灰色の微砂質粘土である。(Table1)
-とくに、A試料の土壌は有機物の中で種、穀物などが多量観察されている。(Fig.3)

有機物総含量分析
-強熱減量法(LOI)を利用し、土壌試料の有機質を分析
:土壌試料A、B、C、D、Eにおける有機物の含量はそれぞれ22.124%、7.670%、
6.909%、8.086%、8.295%であることが判明(Table2とFig.4)
-とくに、A土壌試料は一般的な土壌に比べ、有機物含量(22.124%)が高いので腐食土(humus)と推定される。(Table3)

pH測定
-益山・王宮里土壌試料はすべて酸性土壌(Acidic soil)であることが判明
:土壌試料A、B、C、D、EのpH値はそれぞれ2.86、5.95、4.77、3.67、4.18であることが判明
-結果的に、A、D、E試料は非常に強い酸性土壌(Extremely acid)、B試料は弱酸性土 壌(Medium acid)、C試料は非常に強い酸性土壌(Very strongly acid)であること が確認された。(Table4)

寄生虫卵の観察
-各土壌試料A、B、C、D、E層のすべてから鞭虫(Trichuris trichiura)の卵を確認(Fig. 5)

image Table4 益山・王宮里竪穴遺構土壌のPh
image Table3 益山・王宮里竪穴遺構土壌の腐植含量
image Table2 強熱減量(LOI)を利用した有機物含有量の測定
image Fig5 益山・王宮里遺跡竪穴遺構から観察された人体寄生虫の中の鞭虫の卵
image Fig4 有機物含有量の測定グラフ
image Fig3 益山・王宮里遺跡A試料土壌の種

7. 要約および考察

全般的に各層の土壌は濃い黒の腐食粘土であることが確認された。
A試料は暗黒褐色の腐食粘土、B試料は暗灰色の腐食粘土、C試料は黒の腐食粘土、D試 料は黒灰色の腐食粘土、E試料は暗灰色の微砂質粘土

強熱減量法(LOI)による分析結果、土壌試料Aの有機物含量は22.124%で、腐食土(humus)と推定される

益山・王宮里土壌試料は全体的に酸性土壌(acidic soil)であることが判明
このような土壌特性は土壌の有機物が長い年月腐食した結果なので、昔、竪穴遺構に 多量の有機物質が存在していたことを証明する。 今後、有機分析装置(GC/MS)、赤外分光分析装置(FT-IR)など先端機器を利用し、 有機物質の定性•定量分析および特性を確認する必要がある。

寄生虫卵検鏡の結果、すべての土壌試料から鞭虫(Trichuris trichiura)卵が観察された。
-鞭虫は人体の腸内寄生虫であり、昔、人間が感染し、排便によって排泄されたものと 推定される。
今後、分子生物学的分析を利用し、鞭虫の遺伝子情報と生物学的系統図を作成する 必要がある。


8. 今後の計画

全羅北道・益山・王宮里遺跡出土の古代土壌の第2次有機質分析実験計画を樹立
-2005年1月~2005年11月

土壌の総脂質の抽出および精製
-超音波抽出(Ultrasonic extraction)方法と薄層クロマトグラフィー(TLC:Thin- Layer Chromatography)を利用し、土壌脂質を抽出・精製
-TLCを利用して脂質を分離・抽出

有機分析装置を利用し、古代土壌内の有機成分の定量・定性分析
-第1次Coprostanolの定性分析により遺跡の用途を明確にする。
-第2次Coprostanol/5β-Stanolsの定量分析により草食動物なのか、雑食動物なの かを究明
-第3次Bile acidsの定性・定量分析により雑食動物の種を区別
-古代人の食生活および生活文化を究明

古代遺跡における土壌の生物化学的研究データを確保
-様々な遺跡や多様な年代の土壌の生物化学的研究データを確保
-韓半島全土を対象とした様々な環境と古代食生活を復元するためのデータベース


Reference

クァク・ジョンギル(1995)、沖積地遺跡土壌の観察・記載・分析法、古文化第47集、pp3-26.
チョ・ソンジン、オム・デイク外8人(2002)、事情土壌学、向文社

古生物遺体の安定同位体分析

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古生物遗体的稳定同位素分析

人間または動物が摂取する食料の種類により、骨に生成されるコラーゲン(bone collagen)、炭酸塩(bone apatite carbonate)、ケラチン(hair keratin)などの組織にはそれぞれ異なる安定同位体情報が含まれ、その比率は時間が経っても変わらないことが知られている。そのうち、骨のコラーゲンから抽出した炭素と窒素の安定同位体情報は、古代人の食生活を研究する上で広く利用されている。

現在までδ13Cとδ15Nの分析により推定できる食生活情報はC₃、C₄、CAM植物の摂取如何、動物性蛋白質摂取の程度、陸上動物または海産魚介類、川の魚介類の摂取如何、蛋白質の質と相対的な摂取量などである。古生物遺体から、生存時の安定同位体情報が抽出できれば、当時の食生活(時代、地域、墓制、階層、性別、年齢など)と栄養状態などが復元できる。

人骨抽出コラーゲンの安定同位体分析

コラーゲンは変形したLongin方法(脱塩化、ゼラチン化、凍結乾燥過程)を利用して抽出(van Klinken and Hedges、1998、Radiocarbon、40、51-56)

image 出土人骨から抽出したコラーゲン

古生物遺体の安定同位体の組成比はCN元素分析装置が装着された連続流型の安定同位体比質量分析装置(continuous-flow stable isotope ratio mass spectrometer with elemental analyzer、Delta V、Thermo Fisher Scientific(Bremen))を利用して分析。

image 安定同位体比質量分析装置(IRMS)

炭素(C)と窒素(N)の安定同位体比(δ13C、δ15N)はそれぞれ同位体の標準試料(VPDBとAIR)と比較・分析し、最終段階で各試料のC/N比率を計算。

image 食物連鎖による炭素と窒素の安定同位体比

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